COLUMN
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2017.02.07テクノロジー
前回の記事に引き続き、犬のクローンビジネスに関するお話です。
前回の記事「【前編】愛犬が1千万円で復活?韓国のとある研究所によるクローンビジネスとは?」では、
韓国のスアム生命工学研究院によるクローンビジネスについてご紹介しました。
今回はそんな研究院についてより深くご紹介するとともに、クローン問題の今を考えたいと思います。
その経緯から懐疑的な目を向けられることもあるスアム生命工学研究院ですが、個人的なペットであるクローン犬だけでなく、介助犬や救助犬などをクローン技術で複製することにより、誰かを救っているということもやはり事実として存在します。
スアム生命工学研究院の名前を世界中に知らしめた、2つの大きな出来事をご紹介したいと思います。
韓国の探知犬「クィン」
2007年の春。韓国の済州島という場所で9歳の女児が誘拐され、約40日後に遺体で見つかったという痛ましい事件がありました。
警察はのべ3万人以上の人員を動員して捜索を続けたましたが、最終的に遺体を見つけたのは「クィン」という名前の警察犬(探知犬)でした。それはクィンが任務を課せられてから、わずか30分後の出来事でした。
同研究院は、その後クィンのクローン5匹を生み出しました。韓国メディアの報道によると、そのうち4匹が仁川国際空港などで警備の任務についているそうです。
通常一般的な犬の場合は、訓練を重ねても探知犬や警察犬として活躍できるのは2割程度だそうですが、これに対しクローン犬の場合は8割程度になるといいます。
「優れた嗅覚を持つ探知犬や警察犬を複製してほしい」という依頼は、国内だけではなく国外からあり、これまでに米国やロシアを始め、中国やミャンマー、UAEなどからも要請があったとされています。
9.11の英雄救助犬「トラッカー」
世界中の誰もが、恐ろしい記憶として脳に刻む2001年のアメリカ同時多発テロ、通称「9.11」。
その9.11で崩壊したワールドトレードセンター(世界貿易センタービル)での救助にあたったのが、ジャーマンシェパードのトラッカーでした。
トラッカーは、事件翌日の9月12日に現場に入り、他の救助隊とともに救助活動の先陣を切りました。
その後48時間休みなく働き続け、最後の生存者を見つけたのも、トラッカーだったのでした。
トラッカーはその後、クローン関連サービスを提供するカリフォルニアの企業 BioArts International が主催する「最もクローン化にふさわしい犬コンテスト」で優勝し、5匹のクローン犬が生み出されました。
トラッカーはその後2009年に亡くなりましたが、クローン犬は、トラッカーの飼い主でもあり元警察官のカナダ人の元へ届けられたのでした。
Yahoo!ニュースで配信されていた、「スアム生命工学研究院」のことを扱った記事の中に、こんなインタービュー記事がありました。
彼女は現在、8匹の犬を飼っている。その中でのお気に入りは「サム」。研究所を訪ねたのは、サムのクローンを作りたいからだと言う。サムはまだ元気に生きている。それなのにクローンを?
「ただの犬じゃないか、と言う人がいるのは分かります。でも、私には家族同様。絶対にクローンを作ります。1匹だけのつもりですが、お金に限りがなければ何匹でもほしい」。サムのクローンが死んだら、またクローンを? 「今は分かりません。でも、彼には私の兄弟として生涯一緒にいてほしいんです」
クローン技術は、長く論争の的となってきました。
倫理的な問題や宗教観の問題などが複雑に絡み合い、今後も論争の的となっていくでしょう。
日本国内の場合ですと、2000年に「人クローン技術規制法」が制定され、原則的にクローン人間の作製に対し罰則を科して、これを禁じています。
しかし、ヒトでなく犬ならどうなのか。牛は?絶滅の危機に瀕する動物なら?
救助犬のクローンが人の命を救うのも事実。けれど救助犬だけが許されるのか。個人的なペットだからといって命の重さに差があるというのか。
哺乳類の体細胞核移植によるクローン自体は、もう目新しいものではなく、科学の分野では重要さはさほどないそうです。
そのため、スアム生命工学研究院には「ただのビジネス」だと批判的な意見も集まっている様です。
しかしビジネスで人を幸せにすることもちろんできますし、人の命を救う事もできます。
それがビジネスという立場をとるのか、サイエンスという立場をとるのか。
違いはたったそれだけなのかもしれません。
命には終わりがあるからこそ、燃えるような煌めきがあり、またその儚さが一層のことその命の重みを教えてくれると思います。
ただ、私がもし、「あなたの猫を生き返らせてあげる」と言われたときに、しっかりと断れる自信はないんだろうなと思います。